フォークの音

エッセイ



宿泊先のホテルのレストランで、
朝食を食べていた時のことです。

うっかり手を滑らせて、
フォークを床に落としてしまいました。



すると、壁の裏側から
直ぐに、フォークを持った
ボーイさんが現れて、
手際良く、
テーブルに置いて下さいました。

彼がいた角度からは、
落とす瞬間はもちろん、
落ちている場所も、
見えるはずはありません。

それなのに、
フォークだけ、持って来てくれたのを
不思議に思って、尋ねると

「フォークが落ちる音がしましたから」
とのこと。

確かに、
フォーク、ナイフ、そしてスプーンでは、
それぞれ音が違います。

でも、普通は、
音がした事で、来てくれるかも知れませんが、
目で見て、何が落ちたのかを確認してから、
必要なものを差し出すことでしょう。

音で種類を聞き分けたりは出来ないでしょう。

彼は、耳からの情報をフルに使っているわけです。



そういえば、このホテルは、
宿泊していたお部屋も、とても静かで、
居心地がいいお部屋でした。

音の大切さを知っている、
そんなスタッフがたくさんいるのでしょう。

サービスとは、全ての点で、共通しているように思います。

寄稿:
伊藤 圭一(いとう けいいち)
サウンドエンジニア&プロデューサー、Kim Studio主宰、(株)ケイ・アイ・エム代表。音を自在に操りヒット作を作り出す「音の魔術師」。斬新なアイディアと先見の明により多くの企業や組織、音楽家を成功に導く、エンタメ界の影の仕掛け人。音響メーカー顧問、洗足学園音楽大学教授、公益財団の理事、著書『歌は録音でキマる! 音の魔術師が明かすボーカル・レコーディングの秘密』

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