以前のブログで、
日本語は、英語などの言語と比べて
アクセントが少ないことをお話ししました。
アクセントは、単に音量が大きいだけではなく、
倍音※をふんだんに含んだ子音※を伴うことがあります。
しかし日本語には、倍音をたっぷり含んだ発音や、アクセントが少ないので、
日本人は一般的に、高い周波数を聞くことが苦手なようです。
決して聴覚能力が劣っているわけではないのですが、
日常的な会話では、それを聞き分ける必要がないため、
脳がそれを判断する力が磨かれないのです。
例えば、英語の
「T」と「D」の発音を聞き分けるようなことが苦手なのです。
その結果、英語のヒアリングが苦手だったりするわけです。
そんなわけで、
日本人の耳には、ヴァイオリンのように倍音が多く含まれる音より、
琴や三味線のような、比較的まろやかな音を
心地よいと感じる人が多いようです。
言語と、楽器の発達には、密接な関係があるのです。
ところで
秋には、虫の音が耳を楽しませてくれます。
虫の鳴き声は、実は声ではなく、
羽根を擦り合わせることで発しているということをご存じでしたか?
スズムシやマツムシ、コオロギといった虫たちは、
実は、鳴いているのではなく、
羽と羽をこすり合わせて音を発しているのです。
それは、弦を弓で擦ることで音を出している
ヴァイオリン属と同じ原理です。
当然、音がもつ倍音構成は、とっても似てきます。
ですから、ヴァイオリンを弾いている横で虫に鳴かれると、
お互いが邪魔しあってしまいます。
逆に、琴や三味線のような、
比較的まろやかな音色の日本の楽器と、虫の音は、
互いを邪魔することなく、とっても相性がよいのです。
これは、言語でも同じ事が言えます。
虫の音は、倍音を多く含む言語を邪魔して、
言葉を聞き取りにくくさせます。
でも、日本語の場合は、虫が鳴いていても大丈夫なんです。
ですから、外国の方が、日本のデパートやペットショップで
スズムシなどが売られているのを見て、驚くのです。
「こんなうるさい物を、わざわざ買って来てまで
家の中に置いておくのは、何故なんだ?」
というわけです。
そう言われてみると、英語では、
虫を「 bug(バグ)」とまとめて呼ぶことが多く、
あまり歓迎されていないようです。
秋の夜長に虫の音を聞く、この情緒は、
日本語を話す、私たち日本人だけが持つ感性なのかもしれません。
あれ松虫が 鳴いている
ちんちろ ちんちろ ちんちろりん
あれ鈴虫も 鳴き出した
りんりんりんりん りいんりん
秋の夜長を 鳴き通す
ああおもしろい 虫のこえ
きりきりきりきり こおろぎや(きりぎりす)
がちゃがちゃ がちゃがちゃ くつわ虫
あとから馬おい おいついて
ちょんちょんちょんちょん すいっちょん
秋の夜長を 鳴き通す
ああおもしろい 虫のこえ
唱歌「虫のこえ」より
※倍音:
1つの音(基音)を鳴らした際に自然と響く、基音の整数倍(2倍、3倍…)の周波数をもつ音。
例 ピアノで「ド」の音を弾いた時、聞こえてくる「ド」以外にも、裏でたくさんの倍音が鳴っている。綺麗な倍音は音色を豊かにしてくれる。
※子音:
声が通過する際、歯・舌・唇などにさえぎられて発せられる音。
例 d・g・k・m・n・p・s・t・z など。母音(a・i・u・e・o)に対する語。
寄稿:
伊藤 圭一(いとう けいいち)
サウンドエンジニア&プロデューサー、Kim Studio主宰、(株)ケイ・アイ・エム代表。音を自在に操りヒット作を作り出す「音の魔術師」。斬新なアイディアと先見の明により多くの企業や組織、音楽家を成功に導く、エンタメ界の影の仕掛け人。音響メーカー顧問、洗足学園音楽大学教授、公益財団の理事、著書『歌は録音でキマる! 音の魔術師が明かすボーカル・レコーディングの秘密』