シンコペーション

エッセイ




前々回のブログで、
日本語は、アクセントが小さくて、
シンコペーションが少ない言語だというお話をしたところ、

「だから日本語の歌詞の歌は、カッコ良く聞こえないんですね。」
というメールを頂きました。

※シンコペーション:アクセントを通常とは違う位置に置くことで、独特のリズム感やノリを作り出す手法

確かに、日本語には、
第2音節以降(出だしより後)に、強いアクセントをもつ言葉が少ないですし、
文章全体としても、シンコペーションが少ないので、
リズム感を出しにくいと思います。

例をあげてみましょう。

「私は、ピアノが弾けません」
という日本語では、特に強いアクセントをつけません。
でも、英語では、

“I can’t play the piano.“  ( ← の部分にアクセント)

と、常にアクセントをつけて発音します。

アクセントをつけるために、
それ以外の言葉を弱く発音したり省いたりして、リズムに乗せています。

普通の会話がそうですから、歌でも同様です。
日本語の歌よりも英語の方が、リズミカルに歌いやすいのです。

もう1点、日本語の特徴として、
言葉の終わりが、常に母音で終わるという点です。

※母音:声を出す時に、その通路が舌やくちびる等で妨げられない音。日本語では、ア・イ・ウ・エ・オ の5つ。

英語では、

Dogドーg
Catケァーt

のように、最後を子音で止めます。
これが、日本語だと、

いぬI – NU
ねこNE – KO

というように、母音で終わります。
そのため、長く伸ばした音の終わりや、切れ際を、明確に出しにくく、
リズムとしては、間の抜けた感じになってしまいます。

音の終わりを明確にできる言語に比べると、
日本語では、どうしてもリズムやグルーブを出しにくくなるわけです。


そういった意味では、
楽器の演奏を上手く聞かせたければ、音の切り際にも気を遣うべきです。

ベースの上手い人は、弾くタイミングもさることながら、
ミュートのタイミングが絶妙なんです。

「ダーダダー、ダーダダー」

では、グルーブが出しにくいですが、

「ダーッダダーッ、ダーッダダーッ」

と弾くことによって
頭のアクセントだけではなく、
音の切り際にも、グルーブ感が出せるわけです。

そういえば、日本語でも、
関西弁にはシンコペーションがあります。

例えば、

できません。

というところを、

あっーん!

と、第2音節に強いアクセントを伴った
シンコペーションがあるのです。

これはまさに、英語でいう

I can’t

と一緒じゃないですか。

もしかしたら、関西の人は、
英語の上達が早かったり、グルーブ感を出して歌うことが
得意なのかも知れませんね。

寄稿:
伊藤 圭一(いとう けいいち)
サウンドエンジニア&プロデューサー、Kim Studio主宰、(株)ケイ・アイ・エム代表。音を自在に操りヒット作を作り出す「音の魔術師」。斬新なアイディアと先見の明により多くの企業や組織、音楽家を成功に導く、エンタメ界の影の仕掛け人。音響メーカー顧問、洗足学園音楽大学教授、公益財団の理事、著書『歌は録音でキマる! 音の魔術師が明かすボーカル・レコーディングの秘密』

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